CASA BRUTUSという雑誌が今月号で、「スローアーキテクチャー」を特集しています。ここ数年すっかり定着したスローフード、スローライフに続いて次は建築に注目というわけです。
その中で、スイス人建築家ピーター・ズントーが取り上げられています。彼はスイスの田舎町ヘルデンスタインを拠点としながらも、世界中の建築家に影響を与えるような、珠玉の作品を数多くの残しています。彼の生み出す静謐な建築空間は、限られた素材で構成されながらも、光・水・風・音といった自然の要素を効果的に配することで、空間に詩的な豊かさを生み出しています。彼は雑誌のインタビュー記事の中で、建築を創造する際に最も重要な要素は「場所」であるとして、地元産の素材を使い、その土地の持つエネルギーを生かしながら固有の場をつくり出したいと語っています。
少し前の日本でも、家をつくる際はその土地の気候風土で育った材木や素材を使って、地元の職人たちが手間をかけて一軒の家をつくることが当たり前でした。それが安い輸入材や新建材が大量に流通し、住宅メーカーによる工場生産のプレファブ住宅が大量につくられることによって、いつの間にか国産材の木造住宅はひどく特殊な住宅のひとつになってしまったのです。国産材が使われなくなった結果、国内の林業は衰退し森林は荒れ果ててしまいました。先日のカルフォルニア州の山火事は、荒廃した森林の放置が被害拡大の原因になったとも言われています。
最近になって、自然エネルギーを積極的に取り入れた自然素材を使った家づくりが注目を集め、近くの山の木で家をつくるといった産直住宅の運動が各地でさかんに行われるようになりました。時間が経てば汚れみずほらしくなるだけの新建材の住宅よりは、時間が経つにつれ色艶が出て味わいが深まる自然素材の住宅に人々の関心が向かうのも無理はありません。我々は家づくりを考える際に、どうしても経済性、効率性、機能性を第一に考えてしまいがちです。しかしもう少し多様な考え方をもったスローな部分にも目を向け、こうしたスローハウスとも言うべき住まいづくりをもう一度見直す必要があるのかもしれません。