これまでに訪れたことのある都市や建築について書いています。
パリ/パリ郊外プロヴァンス地方
○パリ  
パッサージュ/18世紀末〜19世紀
パッサージュとは18世紀末から19世紀にかけてパリのセーヌ川右岸地区に造られたガラス屋根で覆われた歩行者専用の商業空間で、大通りによって囲まれた街区の隙間に抜け道のように張り巡らされていました。現在パリ市内に20ヵ所程が現存しており、19世紀パリの面影を色濃く残す空間として地元の人々だけでなく多くの観光客でも賑わいを見せています。
鉄とガラスという新しい素材によって造られたパッサージュは新しい時代の到来を告げるものであると同時に、街路には様々な店舗が軒を連ね、その通りを自由に散策する楽しみを人々に与えました。
ユダヤ系のドイツ人哲学者ヴァルター・ベンヤミン(1882-1940)はパッサージュとは〈集団の夢の家〉であり、縮図化された一つの世界としてそこにユートピアを見出していました。パッサージュへ足を踏み入れることは〈子宮内の世界へ入り込んでいく〉ように遥か遠くの消え去った時間へと人々を導き、その〈追憶としての陶酔感〉に耽ることができると書いています。

「パッサージュは外側のない家か廊下であるー夢のように。」【パッサージュ論】

迷宮のように入り組みパリの街に張り巡らされたパッサージュは都市を徘徊する〈遊歩者〉にとって夢のように魅惑的な空間であったのです。 
 
 
 
   
ギャラリー・ヴィヴィエンヌ/1826
国立図書館のすぐそばにあるこのパッサージュはイタリア人建築家が設計したエレガントな雰囲気が漂うパッサージュで、ブティックやサロン・ド・テが軒を連ねています。ガラスのクーポール(円天井)から差し込む光が美しくデザインされたモザイクタイルの床を照らします。
ここはルイ・マル監督の映画「地下鉄のザジ」(1960)の中で田舎からパリの街へやってきた主人公の少女ザジが追跡劇を繰り広げるシーンにも登場します。(この映画には他にもエッフェル塔や東駅、ビル・アケム橋といった19世紀に造られた美しい鉄骨建築が数多く登場します。)
   
 
             
パッサージュ・デ・パノラマ/1800
パノラマという二つの見世物小屋が造られたことから命名されたパッサージュ。初めてガス灯のともったパリの公共空間でもあります。
   
パッサージュ・ジョフロア/1845
パッサージュ内にある「ホテル・ショパン」はこぢんまりとした二つ星ホテルで、運がよければパッサージュを上から眺められる部屋に泊まることができます。
   
その後こうしたパッサージュは都市の商業空間として世界中へ広がっていきます。なかでもミラノのガレリアやモスクワのグム百貨店はその規模と美しさにおいて突出しています。
   
ミラノのガレリア/1865   モスクワのグム百貨店/1888-93
         
○おまけ
パッサージュ(ヴァルター・ベンヤミンへのオマージュ)/1994
ダニ・カラヴァン作
ヴァルター・ベンヤミンは第二次世界大戦中ナチスの迫害から逃れようとスペインへの亡命を計りますが、行く手を阻まれフランスとスペインの国境の町ポルト・ボウで自殺します。ポルト・ボウの地中海を望む共同墓地にはベンヤミンのお墓があり、没後50年を記念してダニ・カラヴァンによって記念碑が作られました。墓地のある断崖に巨大なコールテン鋼板が斜めにつきささる姿は圧巻です。  
 
 
コールテン鋼板のトンネルをくぐると海へ向けて真直ぐに階段が降りていきます。そのまま海へ転げ落ちそうになりますが、先端にガラス壁が立ちはだかります。ガラスにはベンヤミンのメッセージが刻印されています。
「有名なひとたちの記憶よりも、無名なひとたちの記憶に敬意を払うほうが難しい。歴史の構築は無名のひとたちの記憶に捧げられる。」
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