トリノを訪れたのは4年前になります。
当時のトリノの街は、オリンピックへ向けて、市街地の再開発工事や歴史的建造物の修復工事などが市内のあちこちで進められていました。
トリノでのお目当てはフィアット社の旧自動車工場「リンゴット」再開発計画(設計レンゾ・ピアノ)。当時はまだ全体計画の半分も完成していませんでしたが、一足先に部分開業していた建物内のホテル「ル・メリディアン・リンゴット」に宿泊し、巨大な建物内を見学してまわりました。
旧「リンゴット」は80年以上前に建てられた巨大な自動車工場で工業建築の傑作と言われています。
長辺が500mもする中庭を取り囲んだロの字型の建物で(その形状の秘密は屋上にあります)、各階がスロープでつながり1階から階を上がるごとに自動車が組み立てられていくという、生産工程がそのまま建物の形状に生かされた合理的で無駄のない建築でした。
再生計画はかつての建物の外観を残しながらも、そこにホテルやコンベンションセンター、ショッピングモール、美術館、大学といった新しい機能を加えた複合施設として再生させるというもの。
完成した一部を見ただけですが、かつて自動車工場であった面影を残しながらも、古い建物の良さと新しいデザインをうまく調和させた、ヨーロッパらしい洗練された建物に生まれ変わってました。
そんな「リンゴット」の見所の一つは何といっても屋上。
かつて新車のテストドライブコース(全長1.1km、両端コーナーがバンクとなった本格的なテストコース!)として使われていた屋上が当時のまま保存されています。ホテルの宿泊客にはランニングコースとして開放しているということで、お願いして屋上に上がらせてもらいました。屋上からはトリノ市街だけでなく遠くにアルプスの山々まで一望することができ、ジョギングをするには何とも贅沢な環境でした。
また中央には巨大なガラスの球体が空から舞い降りた宇宙船のように鎮座しています。これはフィアットのVIP専用会議室とのこと。360度見渡すことのできるガラス張りの会議室は、建物の新しいランドマークとして異彩を放っていました。(ちなみに、フィアット本社はホテルの目の前にあり、夜遅くまで煌々とオフィスの照明が灯っていました。イタリア人なのによく働くなあと思っていたのですが、業績不振で経営再建中なのだということを後から知りました。)
日本でも最近、既存ストックの有効活用ということでリノベーション(改修)やコンバージョン(機能転換)が盛んに行われいます。
近代の工業遺産を街のシンボルとして保存再生しようとする「リンゴット」の取り組みは、建物の再生にとどまらず街づくりという点でも大いに参考になります。
トリノでは他にも、P.L.ネルヴィ設計の「トリノ展示館(1950年)」などを見てまわりました。
これは波型断面のPC(プレキャストコンクリート)ヴォールト屋根によって、スパン100mの無柱空間を実現した巨大な展示施設で、そのシンプルで力強い構造美にはただひたすら圧倒されました。
ネルヴィという建築家は「計画者の創造的行為は、力学的合理性に根差したものでなければならない」という言葉の通り、技術や構造力学に基づいた合理的で美しい建築デザインをいくつも残しています。 |