日常生活の中で感じたこと考えたことなどを書いています。(不定期更新)

2006年/2005年2004年2003年  建築・都市彷徨今週の一枚 

○2006年12月3日(日)
違いのわかる建築家

最近はCADで図面を描いているので、製図道具を使う機会もめっきりと減ってきました。かつて手書きで図面を描いていた時に重宝していたのが、角度が自由に変えられる勾配定規。
今回はそんな勾配定規の思い出を少し。

学生の頃アルバイトをしていた設計事務所で、道具に人一倍こだわりを持つ所員の方がいました。それまで大学生協で買い揃えた製図道具しか使ったことのなかった僕は、聞いたこともない外国製の製図道具に魅せられ、いつかは手に入れたいなとひそかに思っていました。
そんな中、普段使っていた勾配定規をどこかに紛失してしまいます。これはいい機会だと思い、輸入文具の取り扱いをしている銀座の伊東屋へと向かいました。
お目当てはデンマークのLINEXというメーカーの勾配定規。
すぐに見つかりはしたものの、驚いたのはその値段(確か普及品の数倍の値がついていたような)。
一瞬躊躇したものの「違いの分かる建築家は道具にこだわるんだ」と言われたこと思い出し、おもいきって買ってしまいました。
それから15年、細かな傷や欠けたところはありますが、この勾配定規は苦楽を共にした、今ではなくてはならない大切な道具の一つです。

最近では、もの選びの基準は、価格や目新しさよりも「10年先に自分が使っているイメージがあるか」で判断するようになりました。
日々新しい商品が次から次へと発売になりますが、自分の納得のいくものを末永く使っていきたいものです。

くだんの「違いの分かる建築家」は、その後日本を代表するロボットデザイナーになりました。さすがは違いの分かる男です。

 
   
 
   
 
○2006年3月12日(日)
住まいに不可欠なものは「は」と「ほ」である
「サービスに不可欠なものは「は」と「ほ」である。」
伝説のホテルマン、窪山哲雄氏が、その著書の中で書いています。
「は」とは「はっ」とするサプライズ、「ほ」とは「ほっ」とする和みであり、この二つがバランスよく配置されることによって、お客様に最高のサービスを提供できるというもの。この言葉、「サービス」を「住まい」に置き換えてみても、とてもしっくりときます。

「住まいに不可欠なものは「は」と「ほ」である。」

住まいが心やすらぐ居心地のよい「ほ」っとする空間であることは当たり前ですが、そこに「は」っとする驚き(仕掛け)がさりげなく取り入れられていると、空間にメリハリがつき、毎日の暮らしも楽しくなるのではないでしょうか。

以前ヨーロッパを旅行していた時に、いわゆるデザインホテルに宿泊したことがあります。
そのホテルは、部屋の内装から、家具、照明器具にいたるまで、建築家によって一寸の隙もなく完璧にデザインされた、非常にクオリティの高いホテルでした。最初はそんなディテールの一つ一つに感動していたのですが、どれもこれもきまり過ぎていて、部屋でゆくっりとくつろぐどころか、かえって緊張してしまい、何だかとても疲れてしまいました。非日常空間としてみれば刺激的であるのですが、日常的に接するとなると少しばかりの息抜きも必要です。完璧に計算してつくり込みすぎることなく、デザインの密度(バランス)をうまく取ることが大切なのだとその時学びました。

住宅も過度にデザインし過ぎず、ほどほどがいいのかもしれません。
肩の力を抜いた心地よい空間の中に、きらりと光るちょっとした仕掛け(ディテール)。
そんな住まいをこれからも提案していければと思います。

 
 
LUCERNE  12/2001
   
 
○2006年2月12日(日)
トリノオリンピックが開幕しました
トリノを訪れたのは4年前になります。
当時のトリノの街は、オリンピックへ向けて、市街地の再開発工事や歴史的建造物の修復工事などが市内のあちこちで進められていました。
トリノでのお目当てはフィアット社の旧自動車工場「リンゴット」再開発計画(設計レンゾ・ピアノ)。当時はまだ全体計画の半分も完成していませんでしたが、一足先に部分開業していた建物内のホテル「ル・メリディアン・リンゴット」に宿泊し、巨大な建物内を見学してまわりました。

旧「リンゴット」は80年以上前に建てられた巨大な自動車工場で工業建築の傑作と言われています。
長辺が500mもする中庭を取り囲んだロの字型の建物で(その形状の秘密は屋上にあります)、各階がスロープでつながり1階から階を上がるごとに自動車が組み立てられていくという、生産工程がそのまま建物の形状に生かされた合理的で無駄のない建築でした。

再生計画はかつての建物の外観を残しながらも、そこにホテルやコンベンションセンター、ショッピングモール、美術館、大学といった新しい機能を加えた複合施設として再生させるというもの。
完成した一部を見ただけですが、かつて自動車工場であった面影を残しながらも、古い建物の良さと新しいデザインをうまく調和させた、ヨーロッパらしい洗練された建物に生まれ変わってました。

そんな「リンゴット」の見所の一つは何といっても屋上。
かつて新車のテストドライブコース(全長1.1km、両端コーナーがバンクとなった本格的なテストコース!)として使われていた屋上が当時のまま保存されています。ホテルの宿泊客にはランニングコースとして開放しているということで、お願いして屋上に上がらせてもらいました。屋上からはトリノ市街だけでなく遠くにアルプスの山々まで一望することができ、ジョギングをするには何とも贅沢な環境でした。
また中央には巨大なガラスの球体が空から舞い降りた宇宙船のように鎮座しています。これはフィアットのVIP専用会議室とのこと。360度見渡すことのできるガラス張りの会議室は、建物の新しいランドマークとして異彩を放っていました。(ちなみに、フィアット本社はホテルの目の前にあり、夜遅くまで煌々とオフィスの照明が灯っていました。イタリア人なのによく働くなあと思っていたのですが、業績不振で経営再建中なのだということを後から知りました。)

日本でも最近、既存ストックの有効活用ということでリノベーション(改修)やコンバージョン(機能転換)が盛んに行われいます。
近代の工業遺産を街のシンボルとして保存再生しようとする「リンゴット」の取り組みは、建物の再生にとどまらず街づくりという点でも大いに参考になります。

トリノでは他にも、P.L.ネルヴィ設計の「トリノ展示館(1950年)」などを見てまわりました。
これは波型断面のPC(プレキャストコンクリート)ヴォールト屋根によって、スパン100mの無柱空間を実現した巨大な展示施設で、そのシンプルで力強い構造美にはただひたすら圧倒されました。
ネルヴィという建築家は「計画者の創造的行為は、力学的合理性に根差したものでなければならない」という言葉の通り、技術や構造力学に基づいた合理的で美しい建築デザインをいくつも残しています。

 
TORINO  12/2001
 
  ≫page TOP
 
鷲見工務店
一級建築士事務所/岐阜県知事登録 第4065号
建築工事業/岐阜県知事許可(般-18)第9604号
〒500-8379 岐阜県岐阜市権現町5番地
TEL:058-252-1383 FAX:058-253-0219 E-mail:info@sumi-koumuten.com