これまでに訪れたことのある都市や建築について書いています。
パリパリ郊外/プロヴァンス地方
○プロヴァンス地方  
プロヴァンスのシトー派修道院/12世紀〜13世紀
フランス南部のプロヴァンス地方にはプロヴァンス三姉妹と呼ばれる修道院があります。これらの修道院は厳しい戒律を守り質素な生活を信条としたシトー派の修道院で、12世紀から13世紀にかけて建設されました。どの修道院も隠遁生活を前提とした人里離れた山の中にひっそりと佇んでいます。余計な装飾を極力排した簡素で力強い表現は、プロヴァンス独特の光と影のコントラストによって静謐で厳粛な空間を作り出しています。   
 
ル・トロネ修道院
この修道院はル・コルビュジエをはじめとした数多くの建築家を魅了し、ロマネスク教会最高傑作の一つと言われています。一切の装飾を排した簡素な空間は、建築の美しさは表面的な装飾デザインにあるのではなく、空間の質と光にこそあるのだと語りかけてくるようです。
当時の修道士たちがこの土地に辿り着き、幾多の苦難を経ながらも修道院を建設した様子はフェルナン・プイヨン著、荒木了訳「粗い石」に詳しく書かれています。
装飾の殆どない平滑な面に開口部が小さく切り取られています。
この空間に身をおくと、石という素材の一つ一つの声に耳を傾け、豊かな空間をつくり出していった石工や修道士たちの姿が目に浮かびます。
左:教会正面ファサード
右:中庭から鐘楼を望む
 
極限までコントロールされたわずかな光が空間の神聖化を高めています。
左:大寝室から中庭へ降る階段
右:礼拝スペース
ロマネスク教会はほぼ同一の平面形をもっていますが、ル・トロネ修道院は回廊のゆがみと段差によって厳格な空間に動き(リズム)を生んでいます。こうした中庭を取り囲む回廊は修道院の構造的な中心となっています。
左:中庭を囲む回廊
右:回廊の柱のディテール
 
セナンク修道院
ラベンダー畑に囲まれた谷あいにひっそりと佇んでおり、辺りは森の静寂が支配しています。自然と拮抗し共存しようとする姿は世俗との関係を断ち禁欲的な生活を続けたかつての修道士たちの姿と重なります。幾何学形態と厳格なプロポーションによって生まれた緊張感のある空間に差し込む光は訪れる人の心を大きく揺さぶります。 
修道院全景 中庭から鐘楼を望む 回廊の柱のディテール
シルヴァカヌ修道院
他の二つの修道院が人里離れた山間部にあるのに対してこの修道院は少し開けた丘陵地に立地しています。建物に使用される石材はその土地で採取された地場のものを使うことによってそれぞれの地域性が顕著となります。ル・トロネは赤茶色、セナンクは灰色、シルヴァカヌは白色の石材が使われておりそのイメージは異なります。
修道院全景 中庭を囲む回廊 回廊の柱のディテール
○おまけ1
ラ・トゥーレット修道院/1959
ル・コルビュジエ設計
ル・コルビュジエは新しい修道院を設計するに際して、神父からル・トロネ修道院を見に行くように薦められ、そこでのイメージをもとにラ・トゥーレット修道院を設計したといわれています。ラ・トゥーレットではル・トロネで使われた石という素材がコンクリートに置き換わっていますが、敷地の形状を生かした空間構成や光の象徴的な取り扱いにその影響が見られます。
   
南側立面
リヨン近郊の山の中腹に建つドミニコ会の修道院。予約をすれば宿泊も可能です。
入口から中庭を望む
様々な幾何学形態が自由に組み合わされたコルビュジエの代表作の一つ。
大聖堂内部
コンクリートの粗い肌と光のコントラストとが独特の表情を見せています。
○おまけ2
ゴルド
セナンク修道院に行く途中で見つけた山岳都市。山肌にへばり付くように建物が折り重なる姿はブリューゲルのバベルの塔を思わせるようで幻想的です。  
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